研究紹介

当研究室は、生態系生理学、森林樹木と昆虫の群集生態学、森林生態系の持続的管理、生物多様性の維持・創出機構、生物の適応進化など、森林を中心とした生物や生態系に関する幅広いテーマについて研究しています。

森林生態系は、樹木を中心とする多くの植物、そしてその環境に生きる様々な動物や微生物によって構成されるシステムです。気候や土壌、地史などの環境要因と、競争や共生、食物網などの生物学的相互作用に依存し、多様な森林生態系が地球上には存在します。森林生態学分野では、生物多様性や物質循環、資源保護など様々な切り口から、多様な森林生態系を科学し、世界一線の研究を行っています。ここではいくつかの主要な研究テーマを紹介します。

-「生態系生理学」の研究で新たな学問分野を切り拓く-
樹木は、気候や土壌条件の違いに応じて様々な適応メカニズムを発達させてきました。また、森林に生息する、多様な土壌微生物や動物も栄養塩循環を通して、生態系維持に密接に関わっています。これらの適応や相互作用がなければ、森林生態系は維持されないでしょう。森林生態系の長期維持機構を植物生理学、生物地球化学、生物多様性科学の総合的な知見と斬新なアプローチで研究するのが、「生態系生理学」です。特に、土壌栄養塩の中でも生物地球化学的に複雑な動態を持ち、多くの生態系で生産を制御すると考えられているリンに着目し、リンに関わる生態系生理学を展開している点は、当研究室の強みの1つです。

研究例-
リン欠乏に対する熱帯降雨林樹木のリン利用効率化と適応
材に着目した針葉樹と広葉樹の栄養塩利用特性
土壌栄養塩と樹木の繁殖の関係
熱帯土壌のリン動態
ポリフェノールの生態系生態学
樹木個葉の水利用効率と栄養塩利用効率の関係
光環境変化に対する樹木のモジュール構造変化による適応
樹木根圏の動態と適応

蛍光顕微鏡による葉の横断面

コナラ(Quercus serrata)の細根


-樹木や森林生物の多種共存-
1つの森林は多種の樹木から成っています。特に、赤道付近にみられる熱帯降雨林は、1ha当り200種類以上の高木種から成っています。樹木の種間に競争が働くと、優位な種が下位の種を排除し、多種の共存が成立しなくなってしまいます。なぜ、多種の共存が成り立つのか?この問題は、古くから生態学者にとって大きな謎であり、挑戦的な研究テーマでした。これまでに多種共存を説明する数々の仮説が提示されてきました。私たちは、この長年の大きな問題に対して、新たな切り口を取り入れながら、多角的に取り組んでいます。樹木の高さ競争に伴う光獲得効率と光利用効率のトレードオフ仮説の提唱、樹木の水ストレス回避戦略の多様化(葉細胞の浸透圧調節や細胞壁弾性率の調節の樹種間差)により階層構造のニッチ分割を説明する試み、樹木の水利用効率と栄養塩利用効率のトレードオフからニッチ分割を説明する試み、あるいは土壌微生物群集の局在化と栄養塩可給性のパッチ構造形成を通じて栄養塩獲得のニッチ分割を説明する試み、などを通じて樹木の多種共存機構を研究しています。

研究例-
熱帯林の多種共存に関わる研究、植生解析
共存樹木の光利用戦略の評価
水ポテンシャルの樹種間差とニッチ分割
土壌微生物群集の組成と栄養塩動態
カメラトラップによる熱帯哺乳類動物相の評価
昆虫の行動と群集生態学

キナバル山における一斉開花

キナバル山に設置された気象観測機器


-森林生態系の持続的管理-
大きな構造と高い生産性を持つ森林には、木材あるいはその他様々な林産物資源の供給、生物多様性保護などの大きな生態系サービス機能が期待されています。特に近年、気候温暖化が人類の健全な社会維持にとって大きな脅威となっており、これを緩和する機能が国際的な枠組みとして森林に求められるようになっています(温暖化への適応の問題)。ところが、熱帯林をはじめ世界中の森林において過度の森林利用が進み、その持続性が危ぶまれているのが現状です。このような差し迫った状況にあって、森林生態系の持続的管理を達成するために、新たな生態学的視点が求められています。その視点とは、「長い時間スケール」「広い空間スケール」「生物多様性の生態系維持機能」の3つです。つまり、森林に利用において大きな時空間スケールでの波及効果を最小限に抑えなければならない、という視点です。そのためには、生物多様性の生態系維持機能を長期的に保証することが必要です。また、森林利用の持続性を達成するためにはその進捗を評価する"ものさし"が必要になります。特に、広大な面積をもつ森林の生物多様性や炭素貯蓄などの生態系サービスを評価するために、リモート・センシング技術を取り込んだ新しい評価手法の開発が求められています。現在、このような視点を持って、森林劣化・減少が急激に進んでいる熱帯降雨林において、現地政府機関やNGOと協力し、木材伐採と森林生態系の長期維持の両立を模索する研究プロジェクトを展開しています。 これまでに、インドネシア・東カリマンタン州やマレーシア・サバ州の生産林(木材伐採が行われている森林)を対象に400地点を超える植生調査プロットを設置・モニタリングを行っています。このように大規模に収集したデータを用いて、巨視的な時空間スケールでの生産林の構造や動態を解明する研究を行ってきました。
詳しくお知りになりたい方
生物多様性の可視化技術プロジェクト(H26-28)へリンク
熱帯林連結プロジェクト(H24-26)へリンク
生物多様性保護コベネフィットの最大化プロジェクト(H22−24)へリンク
研究例-
森林伐採と生態系動態の関係
伐採後の森林回復(レジリエンス)の把握
森林伐採が標高傾度に沿った樹木の分布に及ぼす影響の解明
ほ乳動物群集の多様性と分布の把握
持続的森林管理のための生物多様性モニタリングと指標化
持続的森林管理への衛星リモート・センシングの適用

生物多様性の広域可視化技術開発

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マレーシアでの現地調査


-樹木を含む植物の多様な形を統一的に理解する-
地球上には25万種を超える植物が存在し、多様な形や生理機能を有しています。一見、バラバラに見えるそれぞれの種についても、根本的な生理や構造を見ると、多くの共通性と規則性があります。言い換えれば、植物の多様化の背景には、ルールが存在します。例えば、葉の厚さは共存する植物間においても数十倍程度異なりますが、分厚い葉をもつ種は、長い葉寿命をもつ一方、葉のバイオマスあたりの光合成速度は低いという一貫した傾向があります。また植物の大きさは、1cm満たない地表植物(コケなど)から、100mを超える樹木まで様々ですが、大きな植物は光獲得に優位になる一方、支持器官の増大や通導のコストが伴うため、吸収した光を効率的に利用することはできません。つまり、植物の形や生理機能の違いには、なんらかのコストとベネフィットのバランス(トレードオフ)があり、オールマイティーな植物は存在しないのです。私たちは、植物の形や生理機能の違いに介在するトレードオフとそのメカニズムを解明することにより、植物の多様性を統一的に理解しようと考えています。また近年は、植物の形質をデータベース化し、世界的規模で植物の形質多様性を定量的に評価できるようになり、地球レベルでの生物の分布や進化の研究、地球環境問題に関する研究などにも貢献しています。
研究例-
光合成能力の多様性のメカニズム
世界規模での葉の構造や強度の空間変異の評価
樹高の違いに伴う光獲得・光利用戦略の違い
樹冠形状の違いにおける力学的制約
ハワイ諸島におけるハワイフトモモの適応放散

この他にも多くの研究が行われています。興味がある方は、メールでご連絡ください。研究室見学も随時受け入れています。